ファンタシースターオンライン2 RMT市場の中で,昨今最も激しい動きを見せるのは,中国のオンラインゲーム市場だろう。「Asia Online Game Conference 2007 Tokyo」(AOGC 2007)では,そんな中国の最新事情について,立命館大学助教授 中村彰憲氏が講演を行った。1億3700万人にも及ぶという中国のインターネット人口。中村氏は,中国のオンラインゲーム市場の可能性,そして陰の部分について語った。
中村氏は,まず中国のインターネット市場全体の動向について軽く解説した。中国のネット利用者が1億3700万人に達するとしたうえで,音楽や映画のダウンロードの利用率が高いという,ユーザー動向を紹介。中村氏は「これは,おそらくはほとんど違法ダウンロードなどだと思われます」と,中国市場が抱える著作権問題に言及しながらも,「これが中国の実情ということは,把握しておく必要がある」と,やや厳しい口調で述べた。
その中で中村氏は,「中国では,オンラインゲームをはじめとして,音楽や映像などといったコンテンツが市場を引っ張る形」と,まだまだオンラインゲームなどがニッチにとどまっている日本市場との差異を指摘。中国では,オンラインゲームがかなりの存在感を示している様子が,データでもうかがえるのだと説明する。中村氏が言うには,中国におけるオンラインゲーム市場は,ファイナルファンタジーXIV RMT,2004年あたりを境に急激に伸び始めており,その理由としては,カジュアルゲームの普及によるライトユーザー層の拡大が挙げられるのだという。
中村氏は,「急激な成長を見せたオンラインゲーム人口も,ここ1年前後はやや横ばい。ちょっとした成熟期に入りつつあるのではないか?」との見解も示し,飽和状態になりつつある,データが出揃っていない最新の市場動向についても補足。次の話題へと講演を進めていった。
中国のインターネット市場全体を軽く俯瞰したあと,中村氏は,オンラインゲームに焦点を絞ってその動向を紹介。氏は,中国オンラインゲーム市場のトレンドとして,
・アイテム課金制の普及と多様化
・ゲーム依存症防止システムの開始
・RMTの問題
・オンラインゲームのメディア化
などを挙げ,順番に解説を行っていった。
PSO2 RMTちなみにアイテム課金制の普及は,韓国が先行し,今では日本でもその傾向が見られる現象。中村氏が言うには,「2006年に人気を集めたタイトルのほとんどすべてがアイテム課金制といってよい」とのことで,中国でも同様の現象が起こっているようだ。中村氏が用意したグラフを見てみると,World of Warcraftを除いては,月額課金型のタイトルは凋落傾向にある模様。中国市場の動きを考えるうえで,この資料はなかなか興味深い。
ゲーム依存症防止システムについては,「防沈迷システム」というシステムの全タイトルへの導入を目指すという動き。防沈迷システムとは,1日3時間までは健康時間,3~5時間は疲労時間,5時間以上は不健康時間と定義し,そのプレイ時間に応じて,ゲームプレイ中で得られる経験値などを減少させていくというシステムのこと。2005年10月から7か月間,いくつかのメーカーと共同で実験が行われていたようだが,プレイヤーの年齢判別が難しい(中国では,プリペイドカード方式の支払いが主流なため)などの問題があり,現在は一時中断されている状況だとのこと。2アカウントでプレイされたらどうなるのかなど,ツッコミどころが多い印象を拭えないこのシステム。ただこのシステムがはらむ問題点の延長として,キャラクターやアカウントを実名登録制にさせるべきかどうかという議論もされているのだという。
また中村氏は,市場の拡大と共に,RMT(リアルマネートレード)の問題も深刻化していると解説。2003年は10億元(約150億円)と言われていた RMT市場が,2006年には40億元(約600億円)と言われるほど拡大しているといい,さらにRMTと並行して,レベル上げ代行業やユーザーアカウント販売といったものも増えていると説明した。
ちなみにユーザーアカウント販売とは,文字通りユーザーアカウント自体を売り買いしてしまうというもので,ゲーム内アイテム販売をさらに一歩進めた(?)事業形態。これは,日本や欧米でも個人レベルでは見受けられなくもない事象だが,業者が間に入ってやっているという点は大きな驚きだろう。
このアカウント販売が問題化しているのは,いわゆるハッキングツールによって,他人のアカウント情報を盗み,それを売ってしまうなどといった犯罪も絡んでいる点。先ほども少し触れたが,課金形式がプリペイドカードで行われるため,そういった問題がより起きやすい状況なのだという。中国政府は,ゲーム依存症ともどもRMT絡みの問題には頭を抱えているとの話。とくにRMT問題に関しては,ヘタに取り締まるとアングラ化してしまう危険性もあり,手探り状態なのが実情だという。
この件に関して中村氏は,「良い悪いという話は置いて,需要が存在していること自体は認めざるを得ない状況になっている」と解説しながら,ゲーム会社としてはRMTを黙認せざるを得ない実情(規約で禁止していても)が生まれていると,問題の大きさと対応の難しさを語った。
さて,日本からはなかなか見えにくい中国のオンラインゲーム市場について,さまざまな報告をしてくれた中村氏の講演。筆者の感想としては,高い成長率を誇る中国の市場は,魅力的ながらも不透明である,といういつもの結論に落ち着く次第。中村氏が用意したデータを見ても,映像や音楽などに対する著作権意識の低さは相変わらず深刻で,一朝一夕で解決されるという気配はまったくない。
オンラインゲームが,そのビジネスモデルの特異性から「中国でコンテンツビジネスが可能なジャンル」としてもてはやされたのも今や昔。悪質なアカウント販売や RMTの問題を聞くにつけ,根本的な意識レベル(モラル?)での問題は根が深そうだと再確認。大きく成長してきた中国のオンラインゲーム産業が,これらの問題にどう立ち向かうのか。我々としては,今後とも見守るしかないだろうRMT。